どこへ連れて行かれるか わからない

薬指ささく
大阪芸術大学/デザイン学科(VD)2004 年卒業
プロフィール
和歌山在住、ペインター。
原風景と親愛なる隣人をモチーフに描く、日々の雑記を制作主軸とし、国内外の展示にて作品を発表している。
かつてのわたしはブルーノ・ムナーリやレイモン・サヴィニャックへの憧れからデザイン科へと進学し、グラフィックデザインを専攻していました。彼らのようにポスター画や児童書の挿画、絵本を描くのが夢でしたが、当時のわたしは自分の表現上の強みを掴めずにいました。学科の先生が「イラストレーションは言語情報に添えられた視覚情報の道案内のようなものなのに、あなたの絵はどこへ連れて行かれちゃうのかわからない」とおっしゃられたことを今でも時折昨日のことのように思い出します。絵を描くことが好きでも、役割を担った視覚表現が不得手だということを先生との対話の中で気づくことができたことが、自分の中のふわふわしたものを少しずつ固めていったと思います。好きな手仕事のことだけではなくアートワークを取り巻くデザインの仕事について理解を深めたいと思い、デザインの職に就きました。線と文字と空間の設計の世界で、絵を描くことでは身につかない神経感覚を鍛えられたと思いますが、体を壊してしまい制作の現場から離れて働くことになりました。
自分の生活から絵を描くことが抜け落ちて初めて、わたしは学びを始めて以降「役割を与えられていない絵」を描いたことがないことに気がつきました。自分が描きたい絵を描くということは心身のバランスが不安定だったわたしのセラピーとなり、また、自分の記憶や気持ちをまさぐる術となりました。苦手だっSNSを始めたことにより、わたしの絵は多くの方々に見ていただけるようになり描く事がわたしの生業となりました。学生だった当時の自分には、絵から離れることも、絵と出会い直して一緒に歩んでいるとは思ってもみないでしょう。わたしにとって絵は、どこへ連れて行かれるのかわからないものです。





